人気ブログランキング | 話題のタグを見る

佐保会兵庫県支部 楪の会 

yuzuriha3.exblog.jp
ブログトップ

文学講話  「『君死にたまふこと勿れ』と与謝野晶子」               

副題「知の人」として・・・その内なるトルストイ

講師 岩崎 紀美子氏(S36 文国、H22文博比較文化学)
2016年7月28日(木)  神戸市勤労会館会議室407

今回は、与謝野晶子の研究者である岩崎様に、大阪支部からお越しいただきました。お話のレジュメは次の通りです。
1.ご挨拶  ・晶子と私-晶子研究者への道
2.「日露戦争論」との遭遇-晶子に非戦を学ばせたもの 
 ・詩「君死にたまふこと勿れ」成立と二つの評価を巡って
 ・二つの「日露戦争論」と詩語及び詩意  
 ・トルストイと非戦、そして詩主題への確認
3.評論への出発(たびだち)-「内なるトルストイ」
 ・初期評論「産屋物語」「婦人と思想」の主題とトルストイ思想
4.雑誌『婦人の鑑』への執筆 
 ・晶子の婦人論-「男女共生」と「理智への信頼」
5.おわりに代えて-与謝野晶子に学ぶもの
 ・「母性偏重を排す」とトルストイ批判の真意 
 ・現代への提言
 
 与謝野晶子を研究するに至った経緯について: 大学卒業後40年近く、大阪府立高校教諭の仕事を、出産・育児も両立させながら続けられたのですが、社会との軋轢の中で悩んだとき、与謝野晶子の生き方、評論やエッセイに記された数々の提言は確かな道しるべや支えとなっていたそうです。定年後、社会人にも門戸を開いた母校の大学院で学ぶ道を得た時、稀有な女性である晶子の人としての根幹にあるものを見極めたいとの思いから、与謝野晶子の知性形成過程を研究対象に選ばれました。
詩「君死にたまふこと勿れ」成立の背景事情について: 「人」が「人である」ことの認識(非戦の哲学)を、晶子がトルストイから学ぶことになった経緯についてのご研究の一端をお話くださいました。日露戦争最中の明治37(1904)年、『明星』9月号に発表され、論議を呼んだ「君死にたまふこと勿れ-旅順口包囲軍の中に在る弟を嘆きて-」の詩の鮮烈な詩語は、晶子のオリジナルとされてきました。しかし、これは、同年6月にロシアの文豪トルストイ(76歳)が戦争を憂いて発表した「日露戦争論」に大きく影響を受けている可能性が強いことを、多くの資料や文献を読み解いて、証明してくださいました。そして、この論によるトルストイとの出会いは、その後の晶子の人生観や文学観を根底から変えさせるほどの強い衝撃を彼女にもたらして晶子文学に影響を与え、さらに、晶子は社会評論の分野でも数多くの優れた発言を残した評論家であったことを強調されました。
 お話は2時間余にも及び、その内容を簡単にまとめることはできませんが、新鮮な切り口からの与謝野晶子評論の面白さに引き込まれて、わくわくしながら、興味深く聴き入りました。 梅雨明けしてから急に気温が上がった猛暑の日であったせいか、出席者が13人と少なかったことが残念でした。
 岩崎紀美子氏のご著書『與謝野晶子とトルストイ』(2012、文芸社)(文庫本)をぜひ、お読みいただきたく思います。何冊かをお預かりしていますので、楪の会運営委員にお声をかけてください。

文学講話  「『君死にたまふこと勿れ』と与謝野晶子」               _b0211836_1716212.jpg

文学講話  「『君死にたまふこと勿れ』と与謝野晶子」               _b0211836_17161486.jpg

文学講話  「『君死にたまふこと勿れ』と与謝野晶子」               _b0211836_1716739.jpg

by yuzurihanokai2 | 2016-08-14 17:30